著:田中奏多
SHIPメンバーの著作であり、近所の本屋のビジネス系注目図書にあがっていたので思わず購入しました。
一言でいうと、「優しい本」
そして、日常診療の中で感じた生活指導の違和感・不全感を上手く言語化してくれている本だなと思いました。
まずイラストが分かりやすいです。
冒頭に睡眠、食事、運動の要点が図式化されて見やすいイラストとともに載っていて、理解を助けてくれます。
文字数も多くなく、2時間足らずで読むことが出来てしまいました。
睡眠は全ての活動の土台となる体調管理の核心です。
良く眠るためにしっかりと「投資」していきたいと思います。
三位一体改革
眠る投資というタイトルにあるように本書では睡眠について語られていますが、心身を作っていく上で同じように重要である食事、運動についても書かれています。
睡眠、運動、食事は切っても切り離せない三位一体の関係にあると思っていたので、納得でした。
眠れていないとジャンクフードへの誘惑に弱くなったり、疲れて運動する気にならなかったり。
運動不足は不眠の原因になったり。
食べ過ぎたり過度な飲酒は睡眠の質を低下させたり、肥満・運動不足に繋がったり。
どれか一つというよりどれも少しずつ改善していかないと、体質改善は甘くなると思っています。
自省
内科医として生活習慣病の日常診療の中で生活指導を行うことは珍しくありませんでしたが、不十分だなと思うことが多かったです。
「3食バランスよく食べましょう」と言って栄養指導に繋げたからOK
「週2回30分から運動しましょう」「ストレスを溜めないようにしましょう」と言って、薬を処方しておけば、薬効である程度は改善して、責任は果たしているからOK
そう自分に言い聞かせながら「こなしている」外来にはモヤモヤしたものを感じていました。
1人の診察時間は限られていますし、運営から変えることができない一勤務医の立場ではどうにもならないのかもしれませんが、
不眠も含めて生活習慣に真にメスを入れることが出来る本書のようなメソッドが取り入れられれば、より多くの人がハッピーになれるだろうなと希望を持てる内容でした。
言って変わるようなことなら既に変わっていて、何年も病気して通院も内服も継続しなければならない身体になっていないでしょうからね。
理想と現実のギャップが大きいと、行動プランに落とし込んで実践出来ないから、「口だけの生活指導」が虚しく聞こえるんだろうなと思いました。
それから、診療に「依存」を作り、「自立」を邪魔してしまう可能性があることを意識して、自分で自分の心を自立して整えられる「卒業」出来る状態を目指すという姿勢にも見習うものがあると思いました。
睡眠のため生活習慣
本書では、睡眠、食事、運動共に改善の為の具体的な行動プランが沢山示されています。
朝夕15分ずつの早歩き
1日6000歩以上のウォーキング
肩こりストレッチ
朝熱い味噌汁を飲んで体温を上げる
メラトニンの原料になるトリプトファンの豊富な食材を多く摂る(特に間食したいときに)
寝る2時間前には電子機器はオフにする
寝る2時間前に入浴
起きて8時間後の眠くなる時間帯にコーヒーナップをする
15秒からマインドフルネスを行ってみる
眠る投資
これら自体は正直なところ他の本等でも見たことがあるものも多く、新しい発見はさほど多くはなかったです。
生活習慣は多様化していて、個々人で合ったものを続けていくことが大事で、使いやすい形にアレンジして試してみることが勧められていたり、
・好きなものを完全に制限するとストレスになり、反動でたくさん食べてしまうことがあります。
・身体にいいからといって嫌いなものを食べ続けると食の「楽しみ」がなくなります。自分の身体も、心も楽しむ。人生を楽しむ食事をしましょう。
・どうしても二度寝したければ日の当たるところで
眠る投資
といったように、出来なくても自責の念を感じないように気を遣われているところに著者の優しさを感じました。
習慣が途切れたり、立ち戻れなくなるのは「自責の念」を感じて、その物事とネガティブな感情がその人の中で結びついてしまった時ですからね。
自分にも他人にも「許し」、「成長」を促し合える関係を大切にしていきたいと思いました。
眠る投資
そして、タイトルにもなっている「投資」というキャッチコピーも面白いと思いました。
睡眠は個人の能力、パフォーマンスを上げるためにとても大事なもので、将来的に時間、お金、健康を最大化するための投資であるという視点は納得できるものだと思います。
価値観の多様化が進んで、「お金が全て」ではなくなってきていると思いますし、
時間、健康、人間関係(睡眠不足では魅力が低下、イライラしやすく他人に当たり散らかしやすくなる)の価値が高まるだろうと考えれば、
これらを築くための投資としての睡眠は理にかなったものだと思いました。
私も睡眠を改善させるために働き方を変えた側面がありますしね。