著:アリス・シュローダー 訳:伏見威蕃
伝記とかはあまり読んでこなかったのですが、今年は投資に力を入れていこうと思い至ったこともあり、「投資の神様」ウォーレン・バフェットの伝記を読んでみました。
上中下の3巻からなる大作で、通読していくと結構時間がかかりました。
子供時代から、ビジネスを始めた10代、起業して富を大きくしていく時期、育った富と名声を使って社会貢献していく老年期以降というふうに、時系列で書かれていて整理されています。
現代社会でも有名な人物(ビル・ゲイツ、ビル・クリントン、アーノルド・シュワルツェネッガーといった面々)が登場してくるのは下巻からでした。
人生の教科書、投資の教科書となる記述がないかという視点で本書を読みました。
まずどういう仕事に就くと良いのかという問いに対するバフェットの答えが秀逸だと思いました。
自分の大好きなことをやり、最も尊敬している人のところで働きなさい。そうすれば、人生で最高のチャンスを得ることができます。
尊敬できる人のもとで働く。
簡単なようでいて、難しいことだと思います。
外から見て、見識を持っていて尊敬できそうな人だと思っても、一緒に働いて、特に、部下になったりすると、幻滅させるような醜いところが見えてくることも実際は多いと思います。
有名な人、周囲からもてはやされるようになった人ほど、他人の気持ちが分からなくなりやすく、「尊大な人間」に落ちていくこともありますから。
自分なりの解釈ですが、全てを尊敬する必要はないと思います。
過度な尊敬は人をどこか依存的にさせ、膨らんだ期待が「裏切られた」と感じると、「外面は良いけど中身は最悪の人」と逆な方向に歪められてしまいかねません。
尊敬できる人の尊敬ポイントはいつまでも尊敬し、そうでないところは人として尊重しつつも傾倒し過ぎないように距離を保ち、独立した人間同士として付き合うのが良いんじゃないかと思いました。
”熱意こそ抜きん出る代価”
という言葉も真理だと思いました。
集中とは、卓越性の代償となる熱心さのことだ。
という言葉も。
どのような分野のことであっても、集中して人より多く、深く、熱心に取り組み続けられるようになることこそ、人より抜きんでた結果を出すのに必須であるということは、事実でしょう。
自分の“熱意をもって集中できる”仕事を見つけるためにも、色々な挑戦をして行きたいなと思いました。
ウォーレン・バフェットという人間に関することでは、幼少期から数字に強く、興味を持ったことにはとてつもない記憶力を発揮し、物事を深く考える内向的な性格であったという点が、成功者に多い共通点だと思いました。
人に嫌われるのを恐れたり、真っ向から対決することを避けたりするという性格は、一見成功しそうにないものですが、
ビジネスや株式のこととなるといくらでも理知的に話すことができ、周囲に人だかりができるほどだったり、
お金のこととなると物怖じせず、押しの一手(バフェッティングと言われる)のスタイルで、交渉を有利に進めたり、
突き抜けて得意なこと、熱意を傾けられることの存在が「生ける伝説」と言われるほどになるまで人を成長させたという点には勇気づけられます。
家庭環境は必ずしも幸せといえないようですが、本人は最高に恵まれた環境に生まれて幸運だったと言っています。
幸福なことと、不幸なことは、同時に起こっていることが殆どですが、どちらを受け取り、感じるかは自由。幸運な人は幸運を見つける力が長けているのだと思います。
人生の目的は、愛されたいと思っている人たちから、一人でも多く愛されること
このように言い切るウォーレン・バフェットは格好良いと思います。
ルールや原則や教訓などは、三つくらいまでにまとめてシンプルにしているのも成功の秘訣だと思いました。
4つ以上の複雑なルールは常に全てを意識することは難しくなり、結局どれもおろそかになるということはよくある話です。
父親の政治活動での失敗から学んだ話
ひとつ、味方は不可欠である。ふたつ、約束は神聖なものだから、当たり前のことだが、滅多なことで誓約などしてはならない。三つ、人目を惹く派手な行為で何かを成就できることは稀である。
ベンジャミン・グレアム(ウォーレン・バフェットの師)の教え
”株は企業の一部を所有する権利である”
”安全マージンを利用する”
”ミスター・マーケットは、主人ではなく、しもべである”
バフェットが追い求めていた三つの役割
ひとつは、金・人材・影響力をひろげようとする執拗なコレクター。ふたつめは、聖書を朗読し理想主義をふりまく説教者。三つ目は、悪い奴らを打ち負かす警官。
投資についての格言
他人が怖がっている時には貪欲に、他人がどん欲なときには恐る恐る。ただし、市場を出し抜けるとは思わないこと。
彼を有名にした考えを繰り返した。安全マージン、能力の範囲、ミスター・マーケットの気まぐれ。
独力で考えなかったら、投資では成功しない。それに、正しいとか間違っているとか言うことは、他人が賛成するかどうかとは関係ない。事実と根拠が正しければ正しい。結局はそれが肝心なんだ
ゆえに、バフェットの金言はこうなる。ルールその一、損をするな。ルールその二、ルールその一を忘れるな。ルールその三、借金をするな。
どれもシンプルかつ深いルールだと思います。
洗練されていて美しい。
人が失敗するときは大抵、やればいいと分かっていることをやらない時、やってはいけないと分かっているけどやってしまった時、だと思います。
迷いを極力減らせるように、シンプルに落とし込んだルールを自分の中に持っておくことは成功するために必要だと思いました。
本著の素晴らしいところは失敗を包み隠さず書いてあるところです。
バフェットも、失敗を何度となくやらかしてしまっています。最大の失敗はバークシャー・ハザウェイを買収したことというのだから驚きです。
バフェットのこれまでの人生でもそうだったが、欲望を抑えられなくなった時にはトラブルがやってくる。
これには、自分で投資をやっていて思い当たることが幾つもあります。
当初の判断が誤っていたと認めたくなくて、含み損の広がるばかりの株式を保有し続けてしまって、何も出来なくなる。
買った株式が上がって、天井を付けて下がってきたところでもまた上がって上に抜けることを期待して持ち続けた結果、買値まで戻ってきてしまう。
バフェットの勧める長期保有(10年後も持っていたいと思う株でなければ一瞬たりとも持ってはいけない)、バリュー投資の原則からすると、テクニカルな短期の変動に一喜一憂せず、財務と事業内容とブランド力などに裏打ちされた「本質的価値」を見極めてから買えという話なんですけどね。
ウォーレン・バフェットは世界一成功した投資家で、金の亡者なんじゃないかという印象を持ったこともありましたがとんでもなかったです。
金のことだけを考えるような人には、人は寄り付きませんし、金を奪い合う人達の中で生きることになってしまいます。
人を見る目に優れていて、人を扱うことにも優れている。人好きで、優れた人を惹きつける強烈な魅力があることこそ、これだけの成功を収めた要因だと分かりました。
最後に本著のタイトルにもなった「スノーボール」についての記載を引用して締めたいと思います。
「ちょうどいい具合の雪があれば、スノーボールは必ず大きくなる。私の場合がそうだった。お金を複利で増やすことだけを言ってるのではないよ。この世のことを理解し、どういう友人たちを増やすかという面でもそうだった。時間をかけて選ばなければならないし、雪が良くくっついてくれるには、それなりの人間にならなければならない。自分が湿った雪そのものになる必要がある。スノーボールは山を登ってひきかえすことは出来ないから、転がりながら雪をくっつけていった方が良い。人生とはそういうものだ。」