Kanchan(@kanchanblog)です。
私は常勤医を辞めて比較的自由な生活をしていますが、誰にでも勧められるわけではありません。
自由であるということは、人生に責任を持って生きていく必要があるということです。
補償や安定はありません。
働けなくなれば、即収入が途絶えます。
お金についても自分で勉強しなければ「誰かが良いようにやってくれる」訳はなく、知らずに損を被ることになります。
今回は常勤を辞めてみて思った常勤医のメリットについて考えてみたいと思います。
常勤医師のメリット
学術活動に有利
学会で発表したり、論文を書いたりして、後世に残る業績を作りたいと思っている医師は常勤医である方が有利でしょう。
無名の頃は、発表するタイトルの次に施設名が注目されます。
●●病院(大学)の××科の医師というアイデンティティがあって、その上に業績が積み上がっていきます。
注目を集める発表をして学会から評価される人材になるには、有名どころに勤めている方が有利と言えます。
症例報告ではなくまとまった発表をするには倫理委員会を通したり、同意書を作ったりする必要があり、病院組織を動かすため常勤医でなくては出来ないと思います。
病院は集客やリクルートにプラスに働く学術活動は、喜んでサポートしてくれることが殆どです。
学術活動が、好き、やりがいを感じるという方はどこかに常勤として属すことがお勧めです。
専門医・指導医の資格
所属する学会によって変わりますが、専門医を申請するときには症例数・手技数等の診療実績と、認定施設での研修期間、学会参加等で得られるポイントが必要になります。
学会によっては実質常勤であることも求めています(大学ローテーターは非常勤が多いことを鑑みて週3日以上勤務といった記載になっています。)
初期研修終了後3~5年程度の研修期間を経て、受験資格が得られ、専門医試験が受けられるようになり、合格すると晴れて専門医となるのが「王道ルート」です。
今は診療において専門医の直接的なメリットは感じにくいですが、米国のように診療報酬に差がつくようになれば活きてくる可能性はあります。
そして専門医、指導医を取得、維持したいのであれば常勤医師が有利になっています。
学会関連費用を出してくれる
学会活動は病院にとってもプラスになるので、お金を出してくれる場合が多いです。
病院の規定によって差が出るポイントですが、学会参加費、出張の交通費、宿泊費までは、年間の上限金額(10~15万/年)まで出してくれるところが多くありました。
学会年会費については無かったり、2学会までだったり、施設認定に貢献する学会費は出たり、ローカルルールで差がありました。
教科書代、研修費用については「特定支出控除」を使える可能性もありますが、年間97.5~147万円の必要経費を使った場合に対象となる方が多いのでまあ難しいんじゃないかと思います。(令和2年度給与所得控除の上限195万円で計算)
有給休暇がある
給料を貰いながら休めるのは会社員の忘れがちな特権です。
開業医のような事業主になると、休んだ分赤字になりますし、
フリーランスも、休んだ分給料がもらえなくなるだけです。
1週間くらい休めるだけで十分幸せだという方は常勤医向きに「矯正」されてしまっているかもしれません。
雇用が安定している
真の不労所得を構築していない限りは、働けなくなったらお金が入ってこなくなるのは世の理です。
働けなくなってから、お金が入らなくなるまでのタイムラグは常勤医の方があります。
有給休暇や傷病手当や労災、失業給付など常勤の職員にはセーフティネットが幾つも張られているからです。
一度雇われたら本人が退職の意思を示さない限り、なかなか辞めさせることが難しいということも常勤医を守ってくれます。
「働かないおじさん」として高給を貰いながら病院にぶら下がる図太さがないと出来ないようにも思いますが・・・。
社会的信用がある
クレジットカードを作る位であれば却下されることはまずないと思いますが、銀行でローンを組むときは高額になると常勤かどうかで審査結果が変わる可能性はあります。
フリーランス医師では長期で見た時の収入の見積りに割引率を掛けると常勤医師より安く計算されるからです。
あとは自己紹介がスムーズになるという位でしょうか。
職場=アイデンティティとするのが普通という認識の人が多いですからね。
「社会的信用」に何かを貰える訳ではないので、このメリットは小さいかもしれません。
厚生年金保険に入ることが出来る
会社と折半の厚生年金保険に入ることで、将来の年金額が増えるというメリットがあります。
ただ、年金保険料も高いので、「将来のために前借りを受けている」とも言えます。
今後の年金支給がどうなるかは不透明ですが、厚生年金満額貰えれば月16万、国民年金6.5万と合わせて毎月22.5万の支給が現在はあります。
これだけでも老後の生活の基本的な部分は賄えると思います。
手元に金があると使ってしまうタイプの人は、自動的に貯金を作る仕組みが充実している常勤医になっておくことは一考に値します。
また、同時に入れる厚生健康保険は高所得、扶養家族持ちとなると相当割安になっています。
年収1200万円・介護保険料なしで一世帯年間35~40万円となりますが、これを国民健康保険にすると82万円になりますから。
社会保険料についてはこちらの記事でも解説しています。
人間関係がある
常勤で毎日顔を合わせるから仲良くなれる人もいます。
仲の良い同僚や他職種が職場にいると、仕事のモチベーションはかなり上がります。
非常勤でも長く勤めてコミュニケーションを取って、人間関係を作ることは可能ですが、
その分コミュニケーション能力が必要になってきます。
そして、仲良くなると常勤にならないかと勧誘されること請け合いです。
常勤になるということは同じ船に乗る船員になるようなもの。
それが楽しいと思えるのなら、常勤になるメリットがあります。
先端医療に携わるには必要
どの医療にも研究されている領域があり、その最先端を実践しようと思えば特定の施設の常勤医である必要があることが多いです。
先端医療が儲かるという訳でもなく、優れているという訳でもありませんが、
先端医療がやりたい仕事である場合は常勤医である必要があるでしょう。
ちなみにデメリットは?
ここまで常勤医のメリットについて挙げてきました。
しかし、人によるところもあるかと思います。
反対に常勤医のデメリットはどうか?考えてみました。
長時間労働
常勤になると仕事の範囲が曖昧かつ広範囲になります。
入院中の患者、相談されたことのある患者、外来のかかりつけ患者、自分の科に関連する業務、各種委員会、、、
仕事の量は膨らみ、時間内に終わらなくなっていきます。
始業時刻よりも早く来て仕事を始め、終業時刻を過ぎることが「普通」です。
当直に入るのが「普通」の病院もあります。当直明けにも1日仕事で帰れないところもまだまだあります。
「普通」から外れると粗探しを受けやすくなったりもします。
また、仕事が終わっていても、患者の急変など、自分で時間を選べない「仕事」が発生したりもします。
未だ多くの病院は「主治医制」で動いていますからね。
業務量だけでなく非効率性や人手不足や人間関係など様々な要因が積み重なり常勤医師は長時間労働となっています。
そして、全労働時間に対して時間外賃金が支給される病院は殆どなく、サービス残業の分時給を押し下げることになります。
緊急呼び出し
長時間労働を終えて家に帰ってからも完全なオフと言えないのは、常勤医のデメリットです。
オンコールという緊急時に呼び出しを受ける当番になっていたり、それさえなくても入院中の担当患者がいれば呼び出しを受けることがあります。
緊急処置がない診療科や、病棟を診ない医師であれば緊急呼び出しの頻度は減らせるでしょうが、災害時の招集などはあり常勤医師となることにはこうした「責任」から逃れられません。
休日も夜間も、頭のどこかで緊張している状態になります。
寝るために毎日酒を飲むという人もいました。
普通に悪癖ですし、健康を害する結果に繋がります。
健康リスクが上がる
長時間労働、緊急呼び出しはストレスもかかり、「気晴らし」のためのアルコールや衝動買いや暴飲暴食をしてしまいやすくなります。
肥満になれば、睡眠時無呼吸症候群にも罹患しやすいです。
当直、オンコールもあり、睡眠環境、睡眠リズムを作りにくいことは不眠症のリスクを上げます。
スマホやPHSを枕元に置いて眠らないといけないこと、日々のストレス、過緊張はいずれも不眠症の原因となり得ます。
冷静に見つめてみると、常勤医師の「安定」は健康リスクを踏まえると、安定とも言えないかもしれません。
私が常勤を辞めたのは、健康リスクを重要視したことが大きかったりもします。
まとめ
- 学会活動に有利
- 専門医・指導医の資格
- 学会関連費用を出してくれる
- 有給休暇がある
- 社会的信用がある
- 厚生年金、扶養を使える
- 人間関係がある
- 先端医療が出来る
- 長時間労働
- 時給が低い
- 緊急呼び出しがある
- 健康リスクが上がる
いかがだったでしょうか?
意識するしないに関わらず、どういう道へ進むにもそこにはメリット・デメリットが存在しています。
きちんと理解した上で目的を持ってその道へ進むことが充実したキャリアを送るのに必要だと私は考えています。
参考になれば幸いです。