Kanchan(@kanchanblog)です。
先日「スマホ脳」を読みました。スウェーデンの精神科医のアンデシュ・ハンセン先生が作者のベストセラーです。
スマホによって時間を無駄にしていたり、集中力を持っていかれたりして後悔することがあったのと、同じような悩みを持つ人が多いであろうことが想像出来たからです。
本書では進化心理学の考え方がベースになっています。
狩猟採集民と脳の構造は大きく変わっていないが、スマホは認知領域において大きな環境変化をもたらしたために、「歪み」が生じているというわけですね。
スマホのもたらす怖いところ、害について詳細に書かれています。
解説していきたいと思います。(※ネタバレ注意です)
- スマホ脳を読んだ感想に興味がある方
- スマホの使い方を考えたい方
- 日常生活をより良くしたいと思っている方
原始的な人間の性質
原始的な人間の死因は、殺人、感染症、飢餓でした。これらを回避する能力に長けた人間ほど生き残って子孫を増やしていったということ=殺人、感染、飢餓を避けるのに有利な特性を皆がもっているということです。
食べ物を得ること、その為のお金を得ること、人から好かれること、危ない人から離れること、こういう本能的な欲求を上手に刺激して使わせる力をスマホは持っています。
人を「自分たち」か「あいつら」かに分類しようとする強い衝動が、やはりこれも人間に内蔵された災害や危険への恐怖と同じように明らかに効果を発揮する。
スマホ脳 著:アンデシュ・ハンセン
ネガティブな情報、フェイクニュースに惹きつけられやすいのは、そうすることで殺される危険を避けていたことの名残です。
マルチタスクをするとご褒美にドーパミンを与えて、気持ちよくさせてくれる。つまり、脳は敢えて働きが悪くなるようなことを私たちにさせるのだ。
わずかな気の緩みが命の危機に繋がる可能性があるのだから、何事も見逃さないようにしなければいけない。
スマホ脳 著:アンデシュ・ハンセン
スマホの害の一つであるマルチタスク化もこうして考えると、かつては合目的的だったわけですね。
気持ち良くなるけど、作業は進まなくなっているマルチタスク、気を付けたいと思いました。
鬱になって、引き籠ることは感染、殺人を避けるのに役立っていたという話には新しい視点が得られました。
スマホの力
スマホは便利です。
新しい情報に即座にアクセスできます。
アプリやSNSやゲームは報酬系を巧妙に刺激して人間の気を引くことに特化していると言えるでしょう。
その魅力の強さは開発者が「引く」ほどです。iPhone開発者のスティーブジョブズは、自らの子共にはスマホの利用を厳しく制限していたということにも表れています。
「大事かもしれない」ことに強い欲求を感じ、私たちは「ちょっと見てみるだけ」とスマホを手に取る。しかもこれを頻繁にやっている。
スマホ脳 著:アンデシュ・ハンセン
新しいことを知ることが出来る「かもしれない」、通知が来ている「かもしれない」、ボーナスが得られる「かもしれない」、という絶妙にコントロールされた報酬が脳の注意力を強く引き付けるように出来ているのです。
こうした誘惑のせいで平均10分に一回はスマホを触っているそうです。
(サルを使った実験)音が聞こえても、時々しかジュースが出てこない方が、ドーパミン量がさらに増えることも分かった。2回に1回という頻度の時に、最もドーパミンが放出された。
スマホ脳 著:アンデシュ・ハンセン
必ず報酬が得られることをするのは「作業」「労働」になってしまいますが、2分の1という確率で報酬があったりなかったりすることは期待を煽り、報酬感覚を増大させて人を(サルも)夢中にさせます。
多くのゲームやギャンブルもそういうふうに作られていることからも納得できます。
スマホの害
睡眠不足と肥満
夜間のブルーライトはメラトニン分泌を抑制して眠気を追いやってしまいます。
これは広く知られるようになってきて、夜間モード、グレースケールといったスマホ設定でブルーライトを減らすことが出来たり、ブルーライトカットグラス(メガネ)も販売されるようになってきました。
体重が気になる人は、夜遅くスマホを使うと食欲が増進する可能性があることを知っておいたほうがいいだろう。
スマホ脳 著:アンデシュ・ハンセン
ブルーライトを夜浴びて目覚めさせられたことによって、ストレスホルモンのコルチゾル、空腹ホルモンのグレリンの量をも増やしてしまいます。
また、ブルーライトはレプチン抵抗性を高めると考えられています。
いずれも食欲を増進させる方向に働きます。
たかがブルーライトに体内の内分泌環境を変化させて太らせる力があるということは驚愕でした。
人間関係の悪化
人間は自分のことを話すと報酬が得られたような感覚になることが出来ます。自己開示によって集団に好かれ、生存確率を上げてきた進化過程があるのだろうと筆者は言います。
しかし、スマホによって大事な会話が損なわれる可能性が指摘されています。
スマホが目の前にあると、会話がつまらなく思えるからだ。スマホが魅力的すぎて、周囲に関心がもてなくなってしまう。
スマホを手に取りたいという衝動に抵抗するために、限りある集中力が使われる。
スマホ脳 著:アンデシュ・ハンセン
会話の最中にスマホを見る行為は「ファビング」と呼ばれる相手に嫌われる非言語動作で、聞き手がスマホを触らなくても見るだけで無意識に嫌われることが分かっています。
これは普通に気を付けたい悪癖と言えるでしょう。会話中はスマホを切って仕舞っておくことをお勧めします。
時間を無駄にする
「ちょっとだけ」とスマホを触って、次々と気になることが出てきて、気付けば1時間無駄にしていたというような経験をしたことがあるのは私だけではないはずです。
「後から考えると何も為していないこと」に気付く場合は、間違いなく無駄な時間です。
集中力の低下
スマホには注意を惹く力が強すぎて、マルチタスクにさせられるという問題があります。
マルチタスクが気持ちよく感じられるという脳の性質も関与しています。
次に、
サイレントモードでもスマホは私たちの邪魔をする
脳は弱る―スマートフォンの存在がわずかにでもあれば、認知能力の容量が減る
スマホ脳 著:アンデシュ・ハンセン
スマホを使うことを禁止された状況下でも近くにスマホがあるだけで注意力が低下し、試験の成績が下がるということが分かっています。
グーグル効果とかデジタル性健忘と呼ばれるのは、別の場所に保存されているからと、脳が自分では覚えようとしない現象だ。
スマホ脳 著:アンデシュ・ハンセン
スマホがあればいつでも見られる、調べられると思うと、記憶力が低下してしまうということも分かっています。
覚えること、考えることをスマホにさせることに慣れてしまうと、
覚えられない、考えられない人間になってしまうということなのかもしれません。
恐ろしいことです。
スマホ依存症について
眠りが浅くなる、人間関係が悪化する、集中力が低下する、時間を無駄にしてしまうと感じる、こういったデメリットを「分かっているけど止められない」状態を依存症と言います。
アルコール依存症のCAGEシステムを応用すると、
- スマホの使用時間を減らさなければならないと感じている。
- スマホの使用について家族などから指摘されて気に障ったことがある。
- スマホを使い過ぎた自分を責めることがある。
- 気分を落ち着かせるためにスマホを触ることがある。
の4つのうち2つ以上当てはまっていればスマホ依存症の確率が高いかもしれません。
(※文献的な裏付けはありません)
どんな人がスマホ依存症になるのか
「ヘビーユーザー」に多いのは、タイプA(怒りっぽく攻撃的なほどの積極性に富み、活動的な)の性格の傾向があり、自尊心は低いが競争心が強く、自分を強いストレスにさらしている人たちだった。
おっとりした性格で落ち着いた人生観を持つ人―タイプBの人たち―は基本的にそれほどスマホに依存していなかった。
スマホ脳 著:アンデシュ・ハンセン
性格と依存症についての研究があることは知りませんでした。外向型で神経症的傾向が高く、自尊心が低い人は依存症になりやすいのでしょう。
外向性高+神経症的傾向高はビック5で頻度の高い性格のタイプであり、隠れスマホ依存の人は案外少なくないんじゃないかと思います。
感想
スマホ依存症は無意識的な要素も大きく数字で測りにくいと思いますが、徐々に増えているような気がしました。
電車や街頭で眺めていると、スマホを手にしていない人の方が多い位です。
スマホの使い過ぎは寝不足、肥満、抑うつと関連するため、今後社会問題に発展してもおかしくないんじゃないかと思いました。
著者は個人でできる対策として、
ほとんど全員が元気になれるようなコツがいくつかある。睡眠を優先し、身体をよく動かし、社会的な関係を作り、適度なストレスに自分を晒し、スマホの使用を制限すること。
スマホ脳 著:アンデシュ・ハンセン
をあげています。
ありきたり過ぎて広まりにくい感じですが、健康の基本はいつも変わらないからなのかもしれません。
スマホについて書かれていますが、人間についても理解を深める読み物として面白い名著だと思いました。
おまけ スマホ使用頻度を減らすテクニック
白黒モード
iPhoneでは電源ボタンを3回連続押しにすると、白黒モードにするのがお勧めです。
いつものアプリでも、白黒になるだけで大分スマホの魅力が低下して、触りたい欲求が下がるのが感じられます。
スクリーンタイム
それからスクリーンタイムの休止時間(iPhoneで設定>スクリーンタイム>休止時間)を設定して、夜間スマホを触るのを面倒くさくしておくこともお勧めの設定です。
それでも自制が効かない人は、スクリーンタイム・パスコード設定から身近な誰かに設定してもらって、夜スマホを使いたかったらその人に説明して解除してもらわなくては使えない状況を作ってしまうことも可能です。
そうすれば余程の緊急性・妥当性のある用事以外は使用が憚られるようになり使わなくなるでしょう。
充電場所
玄関など、寝室や生活スペースから離れたところに充電器を設置して、取りに行くのを面倒にしておくというテクニックも有効です。
もっと効果を上げるなら、仕事用のカバンなど、普段あまり触りたくないと思うものの中にモバイルバッテリーに繋いだスマホを放り込んでおくというテクニックもあります。
スマホが触りたくなる感情を、触りたくなくなる感情で拮抗させるイメージですね。
機内モード
スマホが魅力的な理由の一つがネットに常時接続していて、リアルタイムに通知が受け取れて新情報が得られるということです。
機内モードになると、ダウンロードしたものの範囲内での操作しかスムーズに行えず、魅力は低下します。
スマホで読書したい場合など、スマホを使う必要があって、必要のないアプリなどに注意が奪われて困る場合は機内モードがお勧めです。
Forest
一定時間スマホを操作不能にする「Forest-集中力を高める-」というアプリがiOS版、Android版ともに出ていて、有料(2021年6月現在iOS版は250円)ですがお勧めです。
10分~120分の間を5分刻みで設定できて、設定した時間触らずに済んだら目標達成で「木」を獲得できます。
失敗したら「枯れ木」が残ってしまうので、スマホを触らない理由が出来ます。
貯まったポイントを使って、森林保護活動に寄付が出来るというのも面白いです。
近くにあるだけで注意力を奪われるので、物理的に触れないようにするのがベストですが、外出先などでそうもいかない場合、Forestを上手く活用して作業に集中するのはお勧めな戦略です。