Kanchan(@kanchanblog)です。
サイドFIRE生活をしている医師です。
まえがき
話題になっている「DIE WITH ZERO人生が豊かになりすぎる究極のルール」(著 ビル・パーキンス)を読みました。
我が家は夫婦揃って蓄財志向で、そのお陰でサイドFIRE生活出来るだけの蓄財が進んだのですが、
「蓄財するだけの人生で満足か?」と、この本は強烈なメッセージを与えてくれました。
生き方、お金との付き合い方を考え直すきっかけになる良書だと思います。
DIE WITH ZEROの感想が知りたい人
FIRE/サイドFIREを夢見る40代以下の人
生き方を考えるのが好きな人
本書の主張
- 人生は経験の総和
- 若い時ほどお金から経験の価値を引き出すことが出来る
- 使わずに死んだ時、残っていたお金は”機会損失”
- 資産を使い切って死ぬ人生こそ最良
- 経験には賞味期限がある
お金より時間に価値があると考えているのは、多くのFIRE本と似ているなと思いました。
時間=命が有限だからこそお金の奴隷になって働き続けるのはナンセンスという主張は共通しています。
「FIRE(Financial Independence, Retire Early)」と「DIE WITH ZERO」で大きく違うのは、お金に対する考え方です。
例えば若い時の方が経験の価値が高く、同じお金から得られる価値も大きいということ。
若い時にしか出来ない経験をやり逃しているうちに、若くなくなってしまったらもう取り返しがつきません。
だから、貯めるためにせっせと稼いで使わずに過ごしている「限られた若い時間」が勿体ないという話。
一理ありますよね。
他者との経験を考えると、時間は待ってくれないということを強く意識できます。
我が家のような30代子育て世帯では、子供との思い出作りは今の時期を逃すと段々出来なくなっていくでしょう。
親孝行で旅行や高級レストランでの食事に両親を招待しようという計画も、両親が高齢になれば遠出や飽食が良いプレゼントではなっていくことでしょう。
「時間」と「お金」と「健康」の最適なバランスを考えて、その時々の最良の人生をプランニングするという発想は素晴らしいと思いました。
ただ過激だなと思ったのは、若い時に借金してでも貴重な経験をすると良い。45歳~60歳の資産形成期に資産残高がピークになるように減らし始めよう。という主張。
借金に対する感じ方も人それぞれ、得られる経験も人それぞれなので一概には言えないと思いますが、
自分だったら消費・浪費のための借金は極力しません。
お金のために貴重な時間を使う義務を発生させるマイナスが日常生活に与える影響を無視できないと感じるからです。
一般的なリタイア年齢前に資産を取り崩し始めるのも、出来るかどうかと問われれば難しい気がしました。
ここに感じた「引っ掛かり」を深掘りしていきます。
資産ゼロで死ぬことが本当に幸せか
「時間」と「お金」と「健康」の最適なバランスを考えるという発想は素晴らしいと思いました。
サイドFIREで「好きな医師バイト」をしていると、フルタイムと同等以上の賃金が得られ、自由時間は2倍以上に増え、資産額もどんどん増えるというド安定なサイクルが完成します。
しかし、時給思考の罠で仕事を増やしたい衝動に駆られたり、収入減に繋がる休みを取りにくくなったり、無駄に焦りを感じたりする事があります。
「人生は資産形成だけじゃない。たまにはお金を使ってもっと豊かに暮らそうよ。」と、
蓄財のために硬くなった頭をほぐしてくれる温かみを感じました。
見栄や思考停止で支払う無駄な出費を減らして、真に価値を感じる体験に思い切ってお金を投下することは、その後の人生をずっと支えてくれると思います。
「思い出の配当」はバカにできない
DIE WITH ZERO人生が豊かになりすぎる究極のメソッド
経験には「複利効果」があり、良い経験を若い時にすると、その後の人生で度々思い出されたり、語れる話ができたりと、失われない人生の資産になります。
経験の大切さは否定しません。
ただ、資産額にも意味はあると思うのです。
著者はクレイジーと言いますが、リタイア時に貯まっていた金額を丸々残して亡くなる人が多いのには理由があると思います。
- 資産額は安心の土台になる
- 資産額を自身の価値と結び付ける考え方を持つ人もいる
- お金は人生の選択肢をくれる
- 死を連想するとお金が欲しくなる
このあたりが考えられます。順番に解説していきます。
資産額は安心の土台になる
一定以上の資産が貯まると仕事をしなくても生活出来るようになります(FIRE可能です)。
仕事に依存することなく、資産が生み出す不労所得で生活出来る状態は安心感が大きいです。
FIREまで行かなくても何ヶ月、何年生活出来るだけのお金=資産額があるかという数字は、
お金の心配の有無という、QOLを左右し得る十分な影響力があると思います。
資産額を自身の価値と結び付ける
現代では仕事にアイデンティティを重ねる人が多いと考えられています。
仕事をリタイアして肩書きのないただの人になったら、一転して自尊心を保つものが他に必要になると思います。
そこで資産額は手っ取り早いステータス値になり得ます。
「自信の源になり得る資産額」を減らしたくないと思ってしまう人間心理も理解出来ると思ってしまいました。
お金は人生の選択肢をくれる
お金を持っているということは選択肢があるということです。
好きな時に旅行へ行ったり、好きな場所に住んだり、好きなイベントに行ったり、好きなものを食べたり、働かない権利を得たり。
お金があるから選ぶ事ができる行動が無数にあります。
人間は選択肢を減らす選択をするのに大変な苦痛を感じる事が心理学の実験で証明されています。
それが確実に損をする行為と分かっていたとしても、選択肢を残すことを優先して選んでしまいます。
出来た経験を逃す損な人生であってもゼロで死ぬことが出来ないというのは、この構図そのものですよね。
死を連想するとお金が欲しくなる
死を想う事が貯金額を増やすという節約テクニックがあります。
死への恐怖は人間の持つ根源的な恐怖ですが、お金を数えてもらうと死への恐怖が和らぐことが実験で示されています。(出典: Mind over money クラウディア・ハモンド)
死を想うことでお金を使うのではなく持っていたくなるという性質を応用したテクニックというわけです。
リタイア後は死が一つの関心事になるということも、老後資産額をキープしたくなる理由の一つでしょう。
感想
本書の主張に反するようですが、リタイア後を穏やかに過ごすために資産額を保全させておくというのは、不合理な人間の不安を解消するために一定の役割を担っていると思うのです。
ゼロで死ぬというアイデアは確かに面白いと思いますが、上記のような理由からFIREほどには市民権を持つことは難しいのではないかと思いました。
しかし、お金を減らさずに死ぬというのもまた極端です。
無駄に減らすのは避けるべきですが、自分の価値観と向き合った上で「経験を買う」「他人に使う」「時間を買う」というような幸福度を増やす出費を積極的に行うこともまた豊かな人生にとって必要だと思いました。
「資産を減らさない範囲内」という縛りが人生の可能性を狭めていないかについては考えないと人生を無駄にするかもしれないという警鐘を鳴らしてくれたことは素直に受け止めようと思います。
本書についてはリべ大動画でも取り上げられており、使い切って死ねない理由として
- いつ死ぬかが分からない
- 老後の生活は意外にお金がかからない
- 資産はステータス、力
- 子供に残したくなる
とまとめられていました。
また、どのような生き方をしたいかという指針として
- 金融資本
- 人的資本
- 社会資本
- 健康、時間
を出来る限り成長させて、右肩上がりのピークで死ぬのが良いと主張されていました。
私も両学長の意見に賛成です。
リベ大で掲げるお金にまつわる5つの力のうち、「使う力」の指針として本書の一部を実行してみるのは面白いと思いました。
具体的にはタイムバケット作り、家族での思い出作りと親孝行を期限付きで計画するモチベーションになりました。
それからリタイア済みの両親にも本書を贈って、実践してもらいたいと思いました。
「遺産とかいらないから使い切って人生充実させてくれ」と伝えて。
ぶっ飛んでいて、面白い本。
こういう本があるから読書はやめられないと思います。